意を決してミノキシジルの使用を開始したのに、数週間後、シャワーの排水溝や枕元の抜け毛が、以前よりも増えている…。この現象に遭遇し、「薬が合わないのではないか」「かえって悪化しているのではないか」と、大きな不安に駆られて使用を中止してしまう方は少なくありません。しかし、その抜け毛の増加、実はミノキシジルが効き始めている証拠、「初期脱毛」と呼ばれる好転反応である可能性が高いのです。この現象を正しく理解することは、不安を乗り越え、治療を継続するために非常に重要です。初期脱毛が起こるメカニズムは、ミノキシジルが乱れたヘアサイクルを正常化させるプロセスにあります。AGA(男性型脱毛症)が進行している頭皮では、多くの髪の毛が、太く長く成長する「成長期」を十分に経ることなく、弱々しいまま「休止期」(髪が抜け落ちる準備期間)に入ってしまっています。ここにミノキシジルが作用すると、毛根にある毛母細胞が活性化され、新しい、健康な髪の毛を作り出す準備を始めます。この時、すでに休止期に入っていた古い、不健康な髪の毛を、新しく生えてくる髪の毛が押し出すような形で、一斉に脱毛が起こるのです。これが、初期脱毛の正体です。つまり、初期脱毛は、いわば「髪の毛の世代交代」。弱々しい古い髪が、強く健康な新しい髪に場所を譲るための、ポジティブなプロセスなのです。この現象は、一般的にミノキシジルの使用開始後、2週間から1ヶ月程度で始まり、通常は1ヶ月から長くても2ヶ月程度で自然に治まります。抜け毛の量には個人差がありますが、一時的に普段の倍以上の髪が抜けることもあります。ここで最も大切なのは、不安に駆られて使用を中断しないことです。ここでやめてしまうと、せっかく正常化に向かっていたヘアサイクルが再び乱れ、治療が振り出しに戻ってしまいます。初期脱毛は、暗いトンネルの先に出口の光が見え始めた証拠。この時期を乗り越えれば、その先には、新しい髪の成長が待っています。もちろん、3ヶ月以上経っても抜け毛が減らない、あるいは頭皮に強いかゆみや痛みがある場合は、他の原因も考えられるため、医師や薬剤師に相談すべきですが、まずは「これは効いている証拠だ」と信じて、治療を継続する勇気を持つことが大切です。