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若い頃から、彼は自分の生え際が少しずつ後退していくことに気づいていた。父親も祖父もそうだったから、遺伝なのだろうと半ば諦めてはいたが、やはり鏡を見るたびに憂鬱な気持ちになった。友人たちと比べて、自分だけが老けて見えるような気がして、いつも帽子を手放せなかった。夏場でもニット帽をかぶったり、髪型で必死に隠そうとしたり…。増毛スプレーを試したこともあったが、汗で流れるのが怖くて、余計にストレスが溜まった。「どうせ俺はハゲだから」そんな卑屈な気持ちが、彼の自信を少しずつ蝕んでいった。仕事でも、どこか積極的になれず、恋愛にも臆病になっていた。そんな彼が変わるきっかけになったのは、ある海外俳優のインタビュー記事だった。その俳優も彼と同じように若くして薄毛になったが、それを隠すのではなく、潔くスキンヘッドにし、鍛え上げた肉体とファッションで、圧倒的な存在感を放っていた。「髪がないことが問題なんじゃない。それを気にしている自分の心が問題なんだ」その言葉が、彼の胸に強く響いた。彼は決意した。隠すのはもうやめよう、と。美容院に行き、思い切ってベリーショートにしてもらった。最初は見慣れない自分の姿に戸惑い、周りの視線が気になった。しかし、帽子をかぶらない解放感と、シャンプーやセットの手間から解放された爽快感は、想像以上だった。そして、彼は外見だけでなく、内面も変えようと努力し始めた。まずは、自信なさげな姿勢を改めようと、ジムに通い始めた。体を鍛えることで、少しずつ自分に自信が持てるようになってきた。ファッションにも気を配るようになり、シンプルなジャケットやVネックの服が、以前よりも似合うことに気づいた。ヒゲも整え、メガネも新調した。外見が変わると、不思議と心も前向きになった。仕事にも意欲的に取り組めるようになり、周りとのコミュニケーションも円滑になった。「最近、なんだか雰囲気変わったね。かっこよくなったんじゃない？」そんな言葉をかけられることも増えた。彼はもう、薄毛であることをコンプレックスだとは思っていない。それは、他の誰でもない、自分自身の個性の一部なのだと受け入れている。髪の量ではなく、自信と、清潔感と、そして自分らしい生き方こそが、人を「かっこよく」見せるのだと、彼は身をもって知ったのだ。今、鏡に映る自分の姿は、以前とは比べ物にならないほど、輝いて見えた。